小石川植物園、馬が合う
東京都は文京区
文京区は白山駅
そう、ずっと行きたかった小石川植物園へ行ってきた話をしようと思う
年末のことである
かねてよりその噂は植物好きの僕のところへ届いていた
『東京大学大学院理学系研究科附属植物園は、一般には「小石川植物園」の名で呼ばれ親しまれており、植物学の研究・教育を目的とする東京大学の教育実習施設です。 この植物園は日本でもっとも古い植物園であるだけでなく、世界でも有数の歴史を持つ植物園の一つです。 』(公式HPより)
小石川植物園とは俗称で
正式名称は
東京大学大学院理学系研究科附属植物園
というなんとも大層な名前の植物園なのだ
そう、あの東大である
日本で一、二を争うあの東大
世界的に見ると東大はレベルが低いらしいが
ひとまず我が日本国においては最高峰と言える大学の管理している植物園だということが言いたいのである
いや、違った
べつに管理しているのが東大だろうが、ジェダイだろうがどうでもいい
大切なのはそこに植物園があり、僕が植物好きということだ
行かない手はない
ということで去る2018年末に一眼レフをバッグに忍ばせ、僕は都営三田線に揺られていた
当日はまるで歓迎されているかのような晴天
やはり僕は天に味方されていると言わざるを得ないだろう
都営三田線白山駅から緩やかな坂を登り、またすぐに下ると植物園の正門がある
正門から道路を挟んだ向かい側に、なんとも味のある売店が店を構えている
タバコ屋に毛が生えたような店で、ちょっとした食料品などが置いてあるのだが、そこで鯉の餌が売っているので購入した
灯油ストーブ独特の匂いが立ち込めていて、どこか懐かしい気持ちにさせられる店だった
店主のおばあさんは長年ここでこうして鯉の餌などを売ってきたのだろう
シワが刻まれた手でお釣りを渡してもらいながら、ついそのおばあさんの生きてきた道筋を想像してしまう
きっと生まれも育ちもこのあたりで、農家の三女か四女だろう
家業を手伝いながら、両親が強引に決めたお見合いで結婚
好きではない相手との夫婦生活に初めは戸惑っていたが、無口で無愛想な中にも自分を思いやる夫の優しさを見出し、徐々に夫婦として歩むようになる
子供も息子2人と娘1人をもうけ、幸せに暮らしていたが、夫が病に倒れ女手一つで子供3人を育て上げた
今は親戚が営んでいた商店を引き継ぎ、細々と鯉の餌など売りながら生活を送っている
※全て筆者の妄想であり、事実とは何ら関係がありません
そんな歴史と味わいを感じさせる女性だった
話がずれたので本題に戻ろう
というわけで、その商店で鯉の餌と菓子パンを購入し、正門へと向かった
受付で入場券を買う
大人1人400円
安すぎる
消費税なんか上げてる場合じゃない
植物税をとるべきだ
植物税を国民どもから搾取し、道端や駅前、国道なんかを花と緑で埋め尽くすべきだ、と僕は常々考えている
まあ、それはまた別の機会に語るとして
やっと入場である
入場した矢先に、受付のすぐ横のパンフレット置き場のようなところに可愛らしいものが置いてあった
もう僕は目がハートである
こういうものをただの落ち葉やゴミとして扱わない人は大好きである
一挙に僕の中の期待値は膨らんだ
ここには何かがある
植物好きを喜ばせる何かがある、と
歩みを進めるとさまざまな植物に出会った
ヒノキの葉と実の絨毯
イロハモミジ
もうウキウキが止まらない僕
踊るように園内を歩き回っていたと思う
小石川植物園のウリはニュートンのリンゴとメンデルのブドウと呼ばれる果樹である
ニュートンが重力に気づくきっかけを作ったのが木からリンゴが落ちるのを見たからという話は有名である
そのリンゴの木の親戚的なものにあたる木がこれだ
詳しくはわからないので看板の写真を読んでほしい
もう一つがメンデルのブドウ
これに関しては何もわからないので看板の写真を読んでほしい
季節が冬だからか、すっかり葉を落としたリンゴとブドウの木が生えているだけなので、正直そこまでの感動はなかったが
何となく博学になったつもりで目を細めて頷きながら看板を読んだ
言い忘れていたが、小石川植物園の魅力はなんといっても木の種類ごとに植え分けされているところだ
例えば、冬に咲くツバキだけでも、日本のみならず世界中からさまざまな種類を集めてツバキゾーンを作ってあるのだ
同じツバキという仲間に属するのに、見た目はこんなに違うのである
まるで我々人間のようだ
肌の色、髪の色、目の色
見た目は違えど我々は同じニンゲンという仲間に属している
仲良くやろうじゃないか、ニンゲンたち
ツバキはそんなことを感じさせてくれた
少し大袈裟だったかもしれない
ちなみにこの日は風が強かった
日本海側から低気圧が来ている影響で北風が強く吹いていた
その風たちが大きな木を揺らす
すごくロマンチックな言い方になってしまうが
まるで木々が僕に「ようこそ」と話しかけているようだった
生まれながらのロマンチストである
そんなロマンに溢れる男を、ヒマラヤスギの大木はそっと抱いてくれた
その後もさまざまなエピソードがあるのだが、あまり長くなってはいけないだろうし、
正直書くのがもうめんどくさくなってきているので、写真に語ってもらおうと思う
百聞は一見にしかずって言うし
忘れないでほしいのは、季節は冬ということである
中国の山水画伯、郭煕の言葉に
「冬山惨淡として眠るがごとく」
という言葉がある(今調べた)
冬は山も眠るように葉や花も枯れ、寂しい様子を表しているのだと思うのだが、それでもなお写真のように鮮やかな色彩を帯びて、小石川植物園は我々を迎えてくれたのだ
今こんな調子では、山笑うと言われる春は一体どれほどの魅力が詰まった場所になるのか
考えただけでも末恐ろしい
絶対に行こう
そんなふうに心躍らせながら行くと日本庭園ゾーンに差し掛かった
池にはご想像の通り、こいつらがいた
そう、鯉である
ここでついに、あの場末の老婆から買い取った鯉の餌が役立つ時が来たのである
僕は撒いた
嬉々として撒いた
鯉たちも面白いようにパクつくので、あっと言う間に鯉の餌は鯉どもの胃袋へと消えていった
僕は鯉に餌をやりながら、この一撒き一撒きが、あの商店のおばあさんの生活を支えているような気がして、少し背筋を正しながら餌を撒いた
一袋100円の餌だった
こうして広い植物園を一周し、入ってきた正門から出た我々、植物愛好家御一行は、食べるの大好き御一行へと名を変え、近くにあるイタリアンへと入った
写真で匂いと味を伝えられないのが至極残念である
それは植物好きにとって、天国のような場所である
植物が好きなら行くべきだ
植物が別に好きじゃなくても、広く緑豊かな園内を歩くだけでもとても気持ちが良い
なので結局みんな行くべきだ
そして
ぜひ立ち寄った際は、正門前の小さな商店のことも思い出してほしい
おわり